2022
06.10

EPUBベースの電子出版業界を走り続ける:株式会社技術評論社 馮様へのインタビュー〈第1回〉

Report

株式会社技術評論社を支えているお一人にして、2010年代以降の電子出版業界を出版社の立場から啓蒙し、市場成長に積極的に取り組むお一人でもあり、当社の社外取締役馮 富久様

普段は東京と福島なのでなかなかお目に掛かることが叶いませんが(ご時世柄、というのが最大の理由でしたが)、遂に!去る5/20(金)、GREEPが第2期に入ったということでやっと創業1周年&2周年に向けた決起集会の場で勢揃いし、郡山の事務所でインタビューが実現しました\( ‘ω’)/
*行動制限解除後ですが、空気清浄機能完備、消毒やマスク常備、定期換気等、感染対策を講じております

含蓄に富んだご回答の数々、余すところなくご堪能ください。

Q1 御社の電子書籍は、リフロー:フィックス=4:6ほどですが、フィックスで制作している書籍をリフローに変えていくことについてどのようにお考えですか?
工夫によってリフロー化できたり、リフローにするためのDTP編集を考えていらっしゃったりしますか?

馮様 大前提として、リフロー型(文字情報の認識可、アクセシブルなコンテンツ)での展開を目指しています。その中で、60%のフィックス型がある理由は、紙での販売を前提に作ったタイトルを無理やりリフロー型にすることで、コンテンツの価値が下がるため、誤解を恐れずに言えば、価値が0になるものもあるため、フィックスで展開しているという事情があります。

どういうものかというと、たとえば、初心者向けのアプリケーション解説書のように紙面レイアウトに意味があるもの(見開きでの説明、画面全体と説明文の配置で意図を伝える、引出線を多用した解説など)は、文字情報以外に、コンテンツとしての価値が多く含まれ、リフロー型にすると(紙の状態では持っていた)価値が欠如してしまう、と判断しているからです。リフロー型のような形態を考えるのであれば、スマホアプリ化をする方が現実的です。

また、図鑑のように写真や画像が主となる書籍などもリフロー型にするかどうか入念に検討します。こちらは、とくに対象デバイスの画角によっては見づらくなるケースがあるからです。

リフロー型制作にあたってのDTP編集は、具体的に方針を決めていることはないのですが、たとえば、章項節の指定、箇条書きや強調などのルールについては、一定の編集方針で統一が行われています。とくに、プログラミングなどの技術解説書は構造を指定しやすく、また、執筆者や編集者がMD(マークダウン)を利用した執筆・編集・原稿整理を行うため、結果的にリフロー型に適したDTP編集になっているとも言えます。

広報コメント

リフロー型にこだわり過ぎず、マーケットや読者を意識し、フィックス型を現実的に配信なさっています。
読者目線の電子書籍仕様を考える上で大変参考になりました。

制作側であるGREEPとしては、各出版社様の電子書籍配信部署と編集部が密になって仕様を固めていくと、読み手にとって便利な電子書籍になると改めて考えました。

即時性のみならず、数年後の近い将来を見据えて仕様に興味を持ち続けることが大切だと思います。

Q2 出版業界では、「電子書籍=紙書籍の代替品」という意識が強いと思われます。御社ではJS(JavaScript)対応などで紙書籍にない新たなメディアとしての電子書籍を作っていくご予定や意志、共通認識(編集部と)はありますか?

馮様 まず、私ども技術評論社は、Gihyo Digital Publishingがスタートした2011年以来、電子書籍・雑誌が、「紙の書籍・雑誌の代替品」とは考えておらず、あえて言語化するとすれば、(電子出版物は)新しく増えた読書方法の選択肢の1つと捉えています。

ですから、JS(JavaScript)を活用できるのであれば、可能な限り活用したいです。たとえば弊社が扱う書籍では、数式も重要な要素の1つになります。コンテンツサイド(EPUB側)では、MathMLで定義できるため、それをレンダリングするJSライブラリMathJaxに対応したEPUBリーダーが存在すれば、リフロー型での数式表現が実現可能です。

まだ調査中ではありますが、iBooksであったり、Thorium ReaderでMathJaxをアクティブにし、表現できるようになれば非常に嬉しいですね。 MathML/MathJaxに限らずJSの活用については、コンテンツや出版社側だけではなく、読者の手元にあるリーダーに大きく依存するため、出版社の立場から、EPUBリーダー開発者や各種電子書店へ、強く要望を出しながら、業界全体として理想的な読書環境を実現していきたいです。

インタビュー中の馮様1
左:馮様(GREEPミーティングルームにて)
広報コメント

技術評論社様は主にPC書を取り扱う出版社ということもあり、数式本も数多く販売なさっています。

実情としてはリフロー型の電子書籍で数式を表現するのはかなり難しいので、数式や変数部分などは基本的にインライン画像(外字画像の埋込)で対応しています。

EPUB3の仕様上、数式を扱うことは可能なのですが、ビューワ側が対応しておらず実装できていません。

MathMLやJSが各ビューワで対応できるようになるまで待たず、近い将来もっと読者に寄り添った形にするべく、GREEPとしては目下仕様検討中です。

Q3 「脱紙書籍(=電子書籍そのものに価値がある)」をグリープとしては重要視していますが、今後御社でボーンデジタルとしての電子書籍販売に力を入れていくご予定はありますか?
また、その理由はどんなことでしょうか?

馮様 Gihyo Digital Publishingをスタートして3~4年経ったころ、積極的にボーンデジタルの電子書籍を制作・販売していました。これは、いわゆるマイクロコンテンツの一環で、Web連載を数本まとめたボリュームのものでした。

また、制作受託案件の一環として、外部CPから提供されたコンテンツ(料理レシピ)をボーンデジタルのコンテンツとして販売した実績もあります。

こういった背景からも、技術評論社としては電子出版事業においては、ボーンデジタルの電子書籍・雑誌の価値も十分に考えています。 現在は、既存書籍のリフロー化に重きをおいてビジネス展開しており、その整備をしている真っ最中でもあるため、現段階に限ればボーンデジタルの積極的な展開を行う予定はないのですが、次のフェーズとして、ビジネスパートナーとの協業を含め、制作リソースの確保やタイミングが来れば、改めて展開する可能性は十分あると思います。

広報コメント

全国出版協会・出版科学研究所様のリリースを拝見すると、紙書籍の販売が増加に転じたようです。

とはいえ、中長期的な趨勢としては、電子書籍のコストメリット(印刷、流通のコストが安価)が注目を浴び、電子書籍が伸びてくると考えています。

売り方の違い(価格キャンペーンができるかできないか、中古市場があるかないかなど)があるとは思いますが、コミックやライトノベルなど、ボーンデジタルで十分採算が取れてきています。

即時性が要求される、更新頻度が高い必要がある、などの電子と親和性の高いジャンルや対象読者のITリテラシーが高いジャンルからボーンデジタルに代わっていくのではないだろうかと、電子書籍制作会社としては願望を多分に含みつつ思っているところです。

インタビュー中の馮様2
和やかな雰囲気の中、電子書籍の未来について論じ合う馮様(左)と柳瀬代表(右)
広報

いかがでしたでしょうか?
とても穏やかな雰囲気で進行しつつ、非常に内容の濃い時間でした。

まだまだたくさんお尋ねしましたので、続きは第2回の記事にて!
ぜひ楽しみにお待ち頂ければと思います。第2回目は2022年6月14日(火)に公開予定です(*^-^*)

馮 富久(ふぉん とみひさ)プロフィール

1975年1月、神奈川県・横浜市生まれ。
芝浦工業大学システム工学部卒業、同大学院機械工学修士課程終了後、1999年4月に株式会社技術評論社へ入社。
最初の部署として、雑誌『Software Design』編集部に配属、その後、『Software Design』編集長、『Web Site Expert』編集長を経て、オンラインメディア「gihyo.jp」の立ち上げに関わった後、電子出版事業責任者として、「Gihyo Digital Publishing」をリリース。現在は、同社デジタル事業部部長として、技術評論社のオンライン・デジタル関連の事業を統括する。

2021年5月、株式会社グリープ設立とともに、社外取締役として参画。
社外活動として、40社以上の国内出版社が参加する電子書籍を考える出版社の会の代表幹事を務めるほか、WebSig24/7モデレーターやTechLIONプロデューサーなど、IT/Webコミュニティ二積極的に参加し、活動する。

大の巨人ファン、鍋料理好き。

http://id.mixi.jp/tomihisa
http://facebook.com/tomihisa

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。