06.14
EPUBベースの電子出版業界を走り続ける:株式会社技術評論社 馮様へのインタビュー〈第2回〉
株式会社技術評論社を支えているお一人にして、2010年代以降の電子出版業界を出版社の立場から啓蒙し、市場成長に積極的に取り組むお一人でもあり、当社の社外取締役、馮 富久様。
普段は東京と福島なのでなかなかお目に掛かることが叶いませんが(ご時世柄、というのが最大の理由でしたが)、遂に!去る5/20(金)、GREEPが第2期に入ったということでやっと創業1周年&2周年に向けた決起集会の場で勢揃いし、郡山の事務所でインタビューが実現しました\( ‘ω’)/
*行動制限解除後ですが、空気清浄機能完備、消毒やマスク常備、定期換気等、感染対策を講じております
含蓄に富んだご回答の数々、余すところなくご堪能ください。
*この記事は第1回インタビューの続きになります。
Q4 電子書籍の売上はジャンルでかなり偏りがあります。
ご経験上、今は売れていなくても今後売れてくる電子書籍のジャンルはありそうですか?
あるとすればどのようなジャンルでしょうか?
今はビジネス書、PC書、エンタメ系、コミックス、レシピなどの電子書籍は売れてきています。
もっと固いジャンル、たとえば、美術本や学術本、ホビー系など、紙書籍でもなかなか難しいジャンルでも電子書籍ならではの裾野の拡がりはあり得るのかご意見を伺いたいです。
馮様 非常に難しいですね。逆に、もしあればぜひ教えていただきたいです笑
それはさておき、たとえば、文字モノと呼ばれるものでもまだまだフィックス型で販売されているコンテンツは散見されます。ですから、ジャンル、というよりは、日本の出版業界として、リフロー型にシフトする余地、ビジネス拡大の可能性は十分あるように思います。
その他、学校関係の教科書や各種資格試験の対策書など、いわゆる市販流通とは異なる領域での電子化、電子書籍のシェア拡大は今後増えるのではないでしょうか。これは、GIGAスクール構想や国内では2020年初頭からのコロナ禍の影響でオンライン教育・ICT教育が一気に進んだことが大きな要因で、一方で、学校関係者や出版社が追いついていない部分があるからです。
ただ、こちらについては紙の代替品としてだけで考えてしまうと、先が見えそうでもあり、たとえば、IT教育ベンダーが取り組むようなサブスクリプションサービスとの融合など、デジタル・オンラインを前提に、かつ、アナログ世代の考えの押しつけではなく、デジタルネイティブである学習者(若い世代)の視点も多く盛り込んでいく必要があると個人的には考えています。 あとは、今後、デバイスの進化に加えて、5G、その先にある6Gの導入が進めば、第1回冒頭で述べた図鑑や写真集のような、画像コンテンツを主とした出版物を、パッケージ展開ではなく、ストリーミング展開をする電子出版サービスとして提供することで、利用するユーザーが増えると考えています。すでに映像はその流れがきているので、ここは提供側(出版社側)の考え方のシフト次第かと。
Q5 読書バリアフリー環境整備/読み上げ機能について色々と試していますが、Audibleが生声に近いAIに追いつかれる日が来るかもしれないと感じます。
電子書籍の読み上げ(やバリアフリー環境)についてどのような流れになっていくと思われますか?
馮様 オーディオブックについては、弊社もトライアル的な位置付けで取り組んでいます。当然、出版物の1販路、1経路としては可能性を感じています。
ここで技術評論社としては、読み上げとオーディオブックは別物と捉えていることをコメントさせてください。
まず、読み上げは、まさにグリープでも注力しているリフロー型コンテンツの延長として、質の高いコンテンツであれば横展開できるものと考えます。あとは、リーダー側の処理との調整です。
一方、オーディオブック、とくに日本国内に関しては、文字情報のコンテンツに、音、つまりナレーター(声優)、そして、ナレーターが持つ魅力(やファン)という追加要素が加わったコンテンツとして考えられています。
小説であれば、好きな声優、好きな俳優の声で、とか、教科書であれば、学習者にとって理解しやすいナレーションスキルのあるナレーターで、とか、その部分が重要になりますね。
現時点のAI(自然言語処理・認識技術+音声認識・音声入出力技術)では、高度な表現や、たとえば文脈を読む、行間に意味を込める、といった人間的、感情的要素を含めるのが難しいため、まだまだ多様なコンテンツにはならないのかな、と、自分の理解では考えています。
ここの分野は、コンテンツサイドとは別に、技術分野の進化、変化も重要かと思いますし、僕自身注目しているところです。
最後に、読書バリアフリーの観点では、とにかくリフロー型でコンテンツを作っておくこと、あるいは、PDFでも他のフォーマットでも、テキスト情報を付与した状態でコンテンツをパッケージ化しておくことが最も重要で、それに対応したリーダーがきちんと整備されていくことで、ハンディキャップがある方まで含め1人でも多くの方に、「書籍」「雑誌」を楽しむ機会を増やせると思います。
私たち技術評論社としては、読者の選択肢を少しでも増やし、多くの読者により良いコンテンツを提供することが目的です。そのためにも、リフロー型コンテンツの制作と販売は欠かせません。
Q6 電子書籍市場が日本でも活況を呈し始めてから10年が経ちます。この10年を振り返りつつ、次の10年で電子出版業界はどのようになっていくと思われますか?
馮様 これからの10年でリフロー型が真に主流になるだろうと考えています。
今でも多くのことがオンラインで行われていますが、これから更にオンラインでのやり取りが当たり前になり、便利さが周知のものとなって伸びていくでしょう。
すると読者が電子書籍を身近なものとして受け入れ、メリットを感じられることが増えます。
たとえば最近の動きで言えば、このGW(2022年5月)にコロナ禍での行動制限が解除されました。これにより、GW期間中、出版物を含めECの販売額が減少した、という話も聞きます。消費者の購買行動に、休暇が大きな影響を与えたわけです。それでもある程度ジャンルに関係なく、デジタルコンテンツの販売・流通量はそこまで影響は出なかったとのことですし、実際、私たち技術評論社もGW期間中に爆発的に売れたタイトルが複数ありました。
コンテンツありきは大前提ですが、オンライン・デジタルという特性をもった電子書籍だからこそ、旅行中でも空き時間に読みたい、忘れないうちに買っておきたいという欲求に応えられたからです。
この10年、私自身、電子書籍についてブレずに意識していること、電子書籍の本質的な価値や電子出版市場で思うことについてお話させてください。
よく、電子書籍はコストの面でも有利に働くと言われます。それも1つのメリットではありますが、コストに関することは出版社の立場では最後に考えることで、まずは紙であろうと電子であろうと良いコンテンツを準備することが最優先です。そして、電子書籍であれば、誰もがアクセスできる状態を目指して準備しなければいけません。つまりリフロー型であることが大前提となりますね。
そう考えれば、今回のインタビューの前半でもお伝えしたように、電子書籍は紙の代替品ではなく、読者が求めている情報を受け取るメディア(形)の1つと言えるわけです。電子出版に取り組む出版社としては、この考えを基に、そのための準備や体制づくりをおろそかにしてはいけないと常に意識しています。また、電子出版業界の中に何か課題が見つかったら、電子出版コミュニティの一員としてその改善に注力しなければいけませんし、オープンな技術をふんだんに活用した電子出版業界においては、多くの関係者の方々と協力し、最新の技術を活用することで、結果的に健全な電子出版市場の維持、成長につながると考えています。
もちろん、そのための学習だったり、アップデートはそうそう簡単ではありません。とくにインターネットに関連した技術の進化は、皆さんも御存知の通り、日進月歩です。でも、ビジネスとはそういうものではないかと思っています。また、その進化や変化と向き合い、前に進む意識は忘れないようにしたいです。
幸いにも、技術評論社は電子出版ビジネスに取り組み始めた当初から、柳瀬さんを始め、非常にすばらしいメンバーの方々とタッグを組むことができています。これからもグリープの皆さんと一緒に、品質の高い、そして、技術の進化・変化に振り回されない、もっと言えば、その進化・変化を楽しみながら、いつの時代でも通用する電子コンテンツを1点でも多く作り、読者の皆様にお届けし続けたいと考えています。
柳瀬代表取締役と旧知の仲ということもあり、穏やかな雰囲気ながらも、熱い内容でこれからの電子出版について色々とお話を頂きました。
様々な展開、可能性を持っている電子書籍業界ですが、全ては「コンテンツそのものが高品質」であることが大前提だと思っています。
ユーザーに読みやすさと便利さを充分感じて頂けるよう、積極的にチャレンジを続けていこうと改めて思える一日となりました。
馮様、有難うございました!
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